Text and Photos by Kiyoshi Mio (三尾圭)

背番号17のクリッパーズのユニフォームに袖を通した河村勇輝が、笑顔でカメラの前に立った。

現地9月28日に行われたロサンゼルス・クリッパーズのメディアデー。

河村がクリッパーズのユニフォームを正式に着用し、ファン、メディアの前に姿を見せるのは、この日が初めてだった。

撮影ブースを回り、英語で次々と質問に答え、合間にはチームメートと言葉を交わす。

新加入選手のメディアデーといえば、どこかよそよそしさが残っていても不思議ではない。だが、この日の河村からは、そんな硬さはあまり感じられなかった。

チームメートと気さくに絡み、笑顔を見せる。その様子からは、トレーニングキャンプが始まる前の段階ですでに、新しいチームの輪に自然に入りつつあることが伝わってきた。

そして河村にとって、この日は単なる新天地でのお披露目ではない。

NBA3年目の挑戦が、ここから始まる。

「またこの舞台に戻ってこられてうれしいです。最高峰のレベルで再びプレーできることをうれしく思いますし、新しいチャプターが始まるのが楽しみです」

英語でそう話した河村の表情は明るかった。

しかし、その言葉とは対照的に、自分が置かれている立場については冷静だった。

「目標は本契約、もしくは2ウェイ契約を勝ち取ることです。今はエグジビット10契約で、トレーニングキャンプに参加する立場です」

クリッパーズのユニフォームを着た。

背番号も与えられた。

メディアデーにも参加した。

それでも、まだNBAのロスターを勝ち取ったわけではない。

そのことを、河村自身が誰より理解している。

「まずはやっぱり2ウェイをしっかり取って、その2ウェイの中でプレータイムを勝ち取って、そこから本契約を取るっていうところが道筋になるかなと思います」

最初の勝負は、これから始まるハワイでのトレーニングキャンプになる。

3ポイント。もう本当にそこに尽きる

この日の囲み取材で、河村が何度も口にした言葉があった。

3ポイントとディフェンスだ。

河村の武器が、スピードだけではないことはすでに知られている。

ペイントへ入り、ディフェンスを動かし、味方を生かす。ピック&ロールからゲームを組み立てる能力には、本人も自信を持っている。

だが、NBAで生き残るためには、それだけでは足りない。

「ワイドオープンになった時の3と、ディフェンスの部分をしっかりと証明できれば、契約にはぐっと近づくかなと思います」

さらに河村は続けた。

「やっぱり3ポイント。もう本当にそこに尽きるかなっていうふうに思うので、しっかりとペイントアタックして、プレーメイキングして、空いたら3ポイントをしっかり打ち切って決め切る」

そして守備についても、

「ピックアップでフルコートでディフェンスして、ディフェンスでどうプラスになれるかっていうところが、今後NBAで生き残っていくために必要なことだと思っています」

と話した。

興味深いのは、河村自身が考えている自分の生き残る道と、クリッパーズ側が河村に感じている魅力が、かなり重なっていることだ。

クリッパーズのGMは、この日のメディアデーで河村についてこう話した。

「彼がペースとテンポを上げられる能力については、チームとしてかなり話をしています。タイ(・ルー)がチームに浸透させようとしている部分でもあります」

さらに、94フィートを使ってフルコートで相手にプレッシャーをかけられること、ピック&ロールでプレーできることを挙げ、

「彼がコートに入ると、試合の流れを変える力がある」

と評価した。

Gリーグでより多く見られた部分ではあるものの、NBAでも短い出場時間の中で、実際にそうしたプレーを見せているという。

河村がNBAで生き残るために必要だと考えているディフェンスとテンポ。

それを、球団側も河村の武器として見ている。

さらにGMは、プレー以外の部分にも触れた。

「彼はチームカルチャーの面でも非常に良い選手です。チームメイトからも好かれていますし、毎日の取り組み方も素晴らしい。今日の朝も、すでに来てトレーニングをしていました」

華やかなメディアデーの朝も、河村はいつも通りコートに立っていた。

Yuki is great. He’s my man

チームメートからの反応も興味深い。

メディアデー前日、USC対オレゴン大のカレッジフットボールの試合会場で、クリッパーズのダリアス・ガーランドを見つけた。

©️三尾圭

そこで河村について尋ねると、ガーランドは笑顔で即答した。

「Yuki is great. He’s my man」

「勇輝は最高だよ。俺の仲間だ」

短いひと言だった。

ただ、その翌日にメディアデーで見た河村の姿は、その言葉と重なった。

撮影や取材の合間にチームメートと気さくに言葉を交わし、笑顔で絡む。

まだレギュラーシーズンはおろか、トレーニングキャンプさえ始まっていない。

それでも、新しいチームに入ったばかりの選手というより、すでに仲間の一人としてその場にいるように見えた。

河村自身も、クリッパーズの雰囲気についてこう話している。

「雰囲気はすごくいいと思います。クリッパーズはこの夏にトレードだったりとか、いろんなことが起こりましたけど、しっかりと全員が前を向いて、同じ方向を向いて今練習できているなって思います」

河村は日本で8月31日の試合を終えると、すぐにロサンゼルスへ飛び、クリッパーズに合流した。

そこから約3、4週間。

ワークアウトやピックアップゲームを重ねてきた。

「お互いだいぶ仲良くなってきているというか、コミュニケーションも取れてきてます」

その言葉を、メディアデーで見せた姿が裏付けていた。

ただし、河村の視線は「チームに馴染めた」というところで止まってはいない。

「どれぐらいプレシーズンに出れるかっていうのは本当に分かりませんけど、常にレディして。試合だけではなくて、練習の中でも自分を証明できればいいなと思っています」

チームメートとの距離は縮まった。

次に必要なのは、その輪の中でNBAの居場所を勝ち取ることだ。

1年目は「立つこと」がうれしかった

河村がNBAに挑戦して、これが3年目になる。

その間に、NBAを見る目も、自分を見る目も変わった。

「1年目はNBAのコートに立つっていうことだけで、満足はしてないですけど、立ってるっていうこの感覚が強くて、自分の中でも嬉しさっていうものがあったんですけど」

最初のシーズンは、夢だったNBAのコートに立つことそのものが特別だった。

しかし2年目、ローテーションの中でプレーする機会を経験したことで、その感覚は変わったという。

「本当に立つだけではいけない。本当に自分の目標である本契約を取るためには、まだまだ道のりは長いなっていうふうには感じています」

NBAのコートに立つ。

そこまでは来た。

次は、その場所に残らなければならない。

3年目を迎えた河村の言葉からは、そんな変化がはっきりと伝わってくる。

八村塁は「メンター」

そして今季、河村にとって特別な存在となるのが八村塁だ。

この夏、日本代表で長い時間をともに過ごした。

英語で八村について聞かれると、河村は「mentor」という言葉を使った。

「彼は僕にとってメンターのような存在です」

©️三尾圭

八村からは、

「自分らしくいろ」
「努力を続けろ」
「自分の夢を追い続けろ」

とアドバイスを受けたという。

日本語での囲み取材でも、河村は八村について、

「パリオリンピック以来にしっかりと長く時間を取って、彼と練習をしたりとか、試合に取り組んできて、本当に彼のすごさっていうものを間近で見れて」

と話した。

クリッパーズで過ごす時間についても、

「日本代表の期間だけではなくて、このNBAのシーズン、プレシーズンだけであっても、彼の近くでプレーできるっていうことは、本当に学ぶべきものがたくさんあると思っているので、すごく楽しみです」

と期待する。

ただし、「同じチームに日本人選手が2人いる」という話を振られた時、河村はすぐに現実へと話を戻した。

「僕はまだそのロスターに入っているわけではないので、本当に一緒のチームになっているかって言われると、そう簡単には言えません」

このひと言に、今の河村の立場がよく表れている。

同じユニフォームを着たからといって、まだ何も保証されたわけではない。

メンフィスと同じ「17」

背番号は17番になった。

理由を聞くと、河村は少し笑った。

「本当は一桁が好きなので一桁が良かったんですけど、17はメンフィスの時につけてましたし、7番っていう番号は結構好きな番号ではあるので、17番にしようかなって決めました」

「初心に帰るような意味もありますか」

そう聞かれると、

「そういった意味をつけてもいいかもしれないですね」

と笑った。

©️三尾圭

NBA挑戦を始めたメンフィス時代と同じ17番。

ただ、あの頃と今では河村自身が違う。

NBAのコートに立つ喜びを知った。

ローテーションの中でプレーする経験もした。

そして、その場所に残ることの難しさも知った。

「この2年間しっかりとやってきて、その積み重ねっていうものがこの3年目、必ず大きく花咲くと思うんで、それを信じて常にエキストラでワークアウトしたりとか、またチームに必要とされていることを自分で探しながら、考えながらプレーして、必ずその目標に向かって突き進んでいけたらいいなと思います」

クリッパーズのユニフォームを初めて正式に着て、ファンとメディアの前に立った9月28日。

笑顔でチームメートとじゃれ合う姿がある一方で、言葉の端々からは、自分がまだ何も勝ち取っていないという危機感が伝わってきた。

NBAのコートに立つための挑戦ではない。

その場所に残るための挑戦。

背番号17を背負った河村勇輝のNBA3年目が、ここから始まる。