右足には、医療用のブーツをが装着されていた。試合後のフロントウェーブ・アリーナ。河村勇輝は会場に残ったファンの前に立った。一人ひとりにサインをし、写真撮影に応じた。一度ロッカールームへ引き揚げる際には、戻ってきてサインをするとファンに約束した。そして、本当に戻ってきた。

 この夜、同じアリーナは、試合前にはまったく別の熱量で沸き立っていた。スターティング5の紹介で最後に名前がコールされると、大歓声が起きた。メディアデーの段階でポール・ヒューイットHCは先発起用を明言していなかったものの、現地11月6日(日本時間7日)、バレー・サンズとのGリーグ開幕戦、河村はサンディエゴ・クリッパーズの先発としてコートに立った。

©️三尾圭

 しかし、歓声で始まった河村の開幕戦は、わずか12分3秒で終わった。第2クオーターに右足を痛め、後半はコートに戻らなかった。チーム広報の発表は「右足のケガ」。前半を58-66のビハインドで折り返したサンディエゴは、第3クオーターに39得点をあげ、相手を25得点に抑えて逆転。最終的には129-126で開幕戦をもぎ取った。

リングへ仕掛けた序盤

 河村は序盤から積極的にリングへアタック。第1クオーター残り8分2秒にドライブからフィンガーロールを沈めると、残り6分26秒にはファウルを受けながらランニングレイアップを決めて14-14の同点にした。直後のフリースローこそ外したものの、積極的な姿勢が光った。

©️三尾圭

 続く第2クオーターには15フィートのプルアップジャンパーを決め、フリースローでも2点を加えた。Gリーグ特有のルールにより、第4クオーター残り2分と延長を除いては、本来2本の与えられるフリースローも、1本を打って成功すれば2点が入る。河村は前半だけで8得点、3アシストを記録。パスからジャミル・テルフォートのダンクと、イレリ・アヨ=ファレイエ、フレッチャー・ロイヤーの3ポイントが生まれた。

©️三尾圭

 一方で、課題の3ポイントは3本放って、いずれも決まらなかった。第1クオーター残り9分58秒、速攻から放った26フィートのシュートはCJ・ハントリーにブロックされた。第2クオーターの26フィートと27フィートは、どちらもステップバックからだった。

©️三尾圭

 9月28日に行われたLAクリッパーズのメディアデーで、河村は3ポイント成功率の目標に「少なくとも40%」を掲げていた。NBAに上がれば「コーナー待機になったりとか、エースにボールを預けて、というロールプレーヤーみたいな役割になってくる」とも話している。ボールを任されるGリーグでは、自らクリエイトしてシュートを放つ場面が増える。河村がNBAで想定する、コーナーでパスを受けて打つ形は、開幕戦の3本にはなかった。

©️三尾圭

スティールの直後に

 暗転の瞬間は、攻守交代のビッグプレーの直後に訪れた。第2クオーター残り6分45秒、サンディエゴが42-46と4点を追う場面。河村はケネディ・チャンドラーがハントリーに出したパスを奪った。ボールを取り返そうとしたハントリーが体勢を崩し、その体が河村の右足に乗る形となった。河村はボールを抱えたまま右足を痛め、顔をゆがめた。残り6分43秒、ハントリーにファウルが宣告された。

©️三尾圭

 河村はコートに倒れ込んだ。ネイト・メンサーが手を差し伸べる中、仰向けのまま親指を立て、大丈夫だと示した。

©️三尾圭

そのままプレーを続け、残り6分31秒には14フィートのステップバックジャンパーを放ったが、外れた。残り5分40秒、第1クオーターと同じくジェイソン・プレストンと交代した。足を引きずりながらベンチへ下がり、トレーナーが右足を確かめると、痛みに顔をしかめた。ハーフタイムが終わり、後半が始まっても、ベンチに河村の姿はなかった。第3クオーターの途中、姿を現したその右足には、すでに保護用のブーツが装着されていた。

©️三尾圭

河村抜きで逆転したチーム

 河村を欠いたチームを牽引したのは、後半開始からコートを預かったプレストンだった。第3クオーター残り8分1秒、速攻から3ポイントを決めて72-72の同点に追いつくと、残り7分24秒にはニック・マルティネリが3ポイントを沈め、サンディエゴが再び勝ち越した。

 プレストンはベンチから27分出場して17得点、9リバウンド、6アシストの活躍。ブレイク・ウェスリーも24分で14得点、8アシストを記録した。マルティネリがチーム最多の27得点をあげ、ロイヤーが22得点、テルフォートが21得点。サンズはドリュー・ティミーが31得点、12リバウンドをあげたが、サンディエゴが3点差で逃げ切った。

©️三尾圭

 先発ポイントガードを任された河村の背後には、プレストンやウェスリーといった攻撃を組み立てられるガードが控えている。今季、LAクリッパーズとエグジビット10契約を結んでキャンプに参加した河村は、プレシーズン2試合に出場したものの、開幕直前の10月12日に契約を解除された。2ウェイ契約を結んでいた過去2シーズンとは異なり、かつてのようにプレー資格が1球団に縛られることはない。裏を返せば、NBAの全30球団が契約先の候補になる。サンディエゴでの一試合一試合が、NBAの各球団に自分を売り込む機会になる。しかし、その貴重な最初のチャンスは、わずか前半の12分余りで無情にも途切れてしまった。

コートに戻る日は

 試合後、河村がメディアの取材に応じることはなかった。ヒューイットHCもまた、河村の状態についてまだ報告を受けていないと話した。

 サンディエゴは現地11月9日(日本時間10日)、敵地のアクリシュア・アリーナでコーチェラバレー・レイカーズと対戦する。ブーツを着けたまま、ファンと交わした約束どおり、その姿を見せに戻ってきた河村。だが、彼がふたたび万全の状態でバスケットボールコートへと戻ってこられる日がいつになるのかは、まだ分からない。

©️三尾圭