2026年3月10日、きっとこの日はNBAにおいて未来永劫に語り継がれる1日になるはずだ。全NBAファンの度肝を抜いたバム・アデバヨはNBA史上2位となる、1試合で83得点という偉業を達成した。記録というものは誰にも予想ができないタイミングに突如として塗り替えられるもの。ウィルト・チェンバレンが1962年3月2日に記録した100得点、この不滅の大記録に最も近づいた2006年1月22日のコービー・ブライアント。NBA史においてその名を色濃く刻んだ2人のレジェンドの間に割って入るのがまさかバム・アデバヨだったとは、誰にも予想ができなかったことではないだろうか。生涯で見ることはできないと私も勝手に思い込んでいた“コービーの81得点”を超えた試合。私はこの歴史の証人として数十年後のファンにも語り継げるよう、この記事を残す。
〈Bam Adebayo stats〉
・41分54秒出場
・83得点(FG46.5% 20/43本)(3p31.8% 7/22本)(FT83.7% 36/43本)
・9リバウンド
・3アシスト
・2スティール
・2ブロック
この試合、ヒートはタイラー・ヒーロー、ノーマン・パウエル、アンドリュー・ウィギンス、ケレル・ウェアとオフェンスで主軸となる選手を多く欠いた。そんな中バムはワシントン・ウィザーズの期待の星であるアレックス・サーを相手に第1クォーターのファーストプレーから猛攻。サーとの意地の張り合いから始まったこの試合は、最初のタイムアウトを迎えた時点で両者譲らぬ9得点ずつのスタート。しかし、そこからさらにギアを上げたのはバムの方だった。
第1クォーターが終わってみれば、フル出場で圧巻の31得点をあげたバム。その勢いは衰えるどころか加速し、前半終了時点で43得点をマークしてゲームを折り返す。1つのクォーターで31得点、前半だけで43得点。いずれもヒートの球団史を塗り替える衝撃的なプロローグだった。
後半に入っても、バムのリムへ対する執着心は凄まじかった。果敢なドライブでワシントンのゴール下を強襲し続ける。執拗なまでのリムプレッシャーは、次々とフリースローという形の結果をもたらしていった。第3クォーター終了時点で、スコアは「62」に到達。かつてレブロン・ジェームズが刻んだ球団記録「61」を、わずか3クォーターで抜き去ったのだ。この「3Q終了時で62得点」という数字は、2005年にコービー・ブライアントがダラス戦で見せた、あの伝説的なパフォーマンス以来の快挙でもあった。
そして迎えた、運命の第4クォーター。アリーナ全体が「何か」が起きる予感に包まれる中、チームメイトは迷わずバムにボールを集める。当然、ウィザーズのディフェンスも3人がかりで阻止しにくるが、彼はその屈強な体躯でねじ伏せ、and1をもぎ取っていく。このクォーターだけで獲得したフリースローは16本。スコアが70点台に乗った瞬間、ファンの意識は明確に、"コービーの81得点"へと向いていった。
そして待望の瞬間は、残り1分16秒に訪れた。獲得した2本のフリースローを、バムは極限のプレッシャーの中で沈めてみせる。掲示板に灯った数字は「83」。コービーを超え、歴史の第2位にその名を刻んだ瞬間だった。地鳴りのようなMVPチャントが降り注ぐ中、残り1分8秒、彼は最高の笑顔を浮かべてコートを去った。
Via NBA official YouTube
突如として生まれたバムの83得点という大記録を受けてSNSは話題沸騰。試合後にはエリック・スポールストラHCはバムの試合内容、そして試合の勝敗が決した時間帯にもバムをコートに立たせたプロセスを語った。
彼は1クォーターからとてつもないプレーを見せていて、ハーフタイムの時点で43得点だった。そこで話していたのは、『自分たちのバスケットを続けよう』ということ。特別に彼のためのセットを多くコールしていたわけじゃないけど、ボールは自然と彼のところに集まっていた。後半は、もう少し意図的に彼にボールを触らせるようにしたけどね。50点に到達したあたりで、『よし、60点いけるかもな』と考え始めた。60点に乗ったら、もう止まらなかった。『じゃあ70点いこう』と。その時点では、彼をベンチに下げるなんて考えもしなかったよ。ただそのまま続けさせたんだ。特別な瞬間を私は作りたかった。
―エリック・スポールストラ(マイアミ・ヒートHC)
He had a a monster first quarter uh and then, you know, had 43 at at halftime, you know, and we just talked about, you know, continuing uh to play our game and, you know, the ball was finding him um regardless of whether, you know, we're calling dead ball calls specifically for him or ATO's in the second half. I was a little bit more intentional trying to get him some touches. Uh but I would say once he got to 50, then we're thinking, all right, let's, you know, maybe maybe he can get to 60. Uh then when he got to 60, you know, it just kept on going. Then we might as well go for 70. Uh and then, you know, I I didn't dare, you know, even think about taking him out, you know, at that point. We just kept on going. I wanted to have a moment.
次々とスコアを積み上げるバムに対してNBA選手もSNSを中心に祝福を送りました。レブロン・ジェームズやドウェイン・ウェイド、ダークノビツキーや、70得点越えを達成したことのあるドノバン・ミッチェルなど、この大記録にはやはり驚きを隠せない様子。2024年1月22日にジョエル・エンビードが70得点を達成した際、「70…??」というリアクションで話題を呼んだケビン・デュラントは今回もコメントを求められた。
リアルタイムで(83得点を)聞いたときは信じられなかったよ。彼は第1クォーターで31得点をあげて、70得点を取った…(笑)バムにおめでとうと伝えたいよ。彼がどれだけ努力してるかは知ってる。スタッツを見たけど、本当にとんでもないよ。40本のシュート、40本のフリースロー、3Pが20本。あれはとんでもないスタミナが必要だよ。コートに出てあれだけ打ち続けて、しかも決めるっていうのは、ものすごいエネルギーがいる。それで記録を作って、あのコービーの記録を抜いて歴代2位になるなんて。いや、本当にヤバいよ。改めておめでとう。とてつもなく大きな偉業だし、これはずっと語り継がれるものになるね。
―ケビン・デュラント(ヒューストン・ロケッツ)
I couldn't believe it when I was hearing it in real time. Just like, you got 30 in the first quarter, you got 70.Congratulations to Bam. I know how much work he puts in. I looked at the stat sheet, it's pretty crazy. 40 shots, 40 free throws, 20 threes. That takes a lot of stamina, man. It takes a lot of energy to go out there and put those shots up, and also make them. And set a record and surpass Kobe as the second highest scoring player in the history of the game. I mean, damn. Congrats to him. Huge, huge accomplishment. Something we're gonna be talking about forever.
KD ON BAM'S 83 POINTS: "To pass Kobe as the second highest-scoring player in the history of the game, I mean damn... something we're gonna be talking about forever." pic.twitter.com/hbtDyUHwLH
— NBA (@NBA) March 11, 2026
しかし一方でこの83得点に対して否定的な意見も少なからず存在した。例えばESPNのシニアライターであるティム・マクマホン氏は「露骨なスタッツ稼ぎ」として嫌悪感を示している。元々辛口評価で知られるマクマホン氏だが、第1クォーターから第3クォーターまで好調だったバムを認めつつも、特にこの試合の第4クォーターでのバム、そしてチームの振る舞いに対して釘を刺した。
分かるとも。バムは君たちのスターだ。歴史を塗り替えるチャンスがあるのも分かる。だが、20点以上リードしているのに、試合時間を延ばすために残り数分でわざとファウルを仕掛けるなんて 。しかも、3人に囲まれながら無理やり3ポイントを乱れ打ちしているんだ 。正直、終盤の展開はひどすぎて、不快極まりないバスケだった。見ながら爆笑してしまったのは認めるよ。-ティム・マクマホン(ESPNシニアライター)
But goodness sakes, I mean, I get it. Bam is your guy. You know, he's got a chance to chase some history, but you're up 20-some, intentionally fouling to extend the game with minutes left. You are... like, he's jacking up threes while being triple teamed. I mean it was just... it honestly was just awful, hideous, disgusting basketball down the stretch that I admit I was cracking up laughing while watching.
Via NBA on ESPN official YouTube
あれから1週間以上が経ち、個人的にはもっと騒がれ続けてもいいと考えるこの83得点。しかしSNSにはマクマホン氏のような意見が散見されるのも事実である。なぜバムの83得点に否定的な意見があるのか。私はその理由が“コービーの81得点”と比較した際の2つの視点における『納得性』の差にあると推察している。
1つ目は『試合のストーリー性』への納得性である。
コービーが81得点を記録した試合を振り返ると、バムが83得点を記録した文脈とかなり違いがあることが伺える。コービーの祖父の命日だったというこの日、コービーは最大18点差までトロント・ラプターズにリードを許し、そこからの逆転劇の中で81得点を積み上げた。一方、今回のバムのケースでは、前半を終えてヒートはすでに14点をリードし、最終クォーター開始時点でも16点リードの安全圏にいた。勝利がほぼ揺るぎないものとなった後の追加点は、勝利への執念というよりは、記録への執着として映ってしまった。さらにその得点方法もフリースローが多かった。バム自身「ファウルをするな!」とチームメイトにコート上で叫ぶ姿も見受けられたが、結果的に勝っているチームが早くポゼッションを確保するためにファウルゲームを仕掛けるという事態に発展していた。そこにマクマホン氏が言うところの『不快さ』を感じる者がいたのは、否定できない事実だろう。
2つ目は『コービーが抜かれた』という事実への納得性だ。
今は亡きコービー。その圧倒的なスター性と、一切の妥協を許さないマンバ・メンタリティは、今やバスケットボール界において神格化されているように感じる。彼のカリスマ性溢れるキャラクターを見てきた我々にとって、心のどこかで「コービーの記録だけは、誰にも越えられたくない」という一種の聖域のような願望を抱いているのではないだろうか。私自身、コービーを心から愛している。だからこそ、その聖域に手が届き、あまつさえそれを超えていく数字が現れたとき、素直に喜ぶ心に蓋をしてしまう感覚も理解できる。バムの偉業を認めたい気持ちと、コービーの思い出を守りたい気持ち。その葛藤が今回の冷ややかな反応の正体なのかもしれない。
Via NBA official YouTube
しかしここで考えて欲しいのは実際にプレーした選手の視点、つまり「もし自分がバムなら」 「もし自分がNBA選手としてその状況に置かれていたら」という見方だ。
残り9分で70得点。それで(記録を)狙いに行かないなんて奴がいるか? 誰が「コーチ、もう下げてください。」なんて言うんだよ。そんなわけないだろ。これに対して腹を立てるなんてお門違いだ。もし怒っている奴がいても、僕は知ったこっちゃない。なぜなら、批判している多くの連中は、プレーした経験があったとしても、『偉大さ』を追いかけられるほどその高みに近づけたことなんて一度もないはずだからだ。もしその『偉大さ』を追い越せるところまで到達したなら、迷わず掴み取りに行く。それこそが高みを目指すということの真意であり、それを超えるために僕らは戦っているんだ。-バム・アデバヨ(マイアミ・ヒート)
I've got 70 with, what, nine minutes left to go in the game? You think I'm not going for it? ... Who would be like, 'You know, Coach, just take me out.' Yeah, right, You can't be mad at that. If you are mad, I don't care. Because a lot of people, if they did play, they never had a chance to get that close to chasing greatness. And if you get that close to chasing greatness, that's the point of chasing it – so you can surpass it.
バムが語ったことはバスケットボール選手として極めて純粋な意見だ。この記事を読んでいただいている皆さまも、一度自らの姿をあの日のバムに投影してみてほしい。もし私があの日のバムであっても、同じように得点を狙いに行くだろう。そして何より、バムの83得点に対して、他のNBA選手たちが次々とリスペクトを示しているという事実。この事実こそが試合のストーリーに関係なく、素直にリスペクトされるべき偉業であることを物語っているのではないだろうか。
どうやってそこに辿り着いたかなんて関係ないんだ。大事なのは、彼がそれを「成し遂げた」という事実だけだ。10年、20年、30年経ってみろ。彼が何本のフリースローを打ったかなんて、誰も覚えちゃいないさ。俺だって、コービーが何本シュートを打ったか、フリースローや3ポイントを何本決めたかなんて覚えてない。記憶に残っているのは『81』という数字だけだ。ウィルトなら『100』。それ以外のことなんて、誰も気にしなくなるんだよ。結局のところ、彼は83得点を取った。それが全てだ。」-ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)
It doesn't matter how you get there. All that matters is that you, you got it. Like in 10, 20, 30 years from now, nobody's going to remember how many free throws he shot. I don't think I, I remember how many shots Kobe shot, or how many free throws he made, or threes. All you remember is 81. Wilt, 100. You don't remember that, you know? So at the end of the day, he got 83 points
Via Bleacher Report official YouTube
ニューヨーク・ニックスの仲良しコンビであるジェイレン・ブランソンとジョシュ・ハートもこの83得点について2人のYouTube番組である『Roommates Show』で語った。
これだけは言っておくよ。2つの事柄は同時に成り立ち得るんだ。1人の選手が40本以上もフリースローを打つなんてのは、正直どうかしてる。でもさ、83点はどこまでいっても83点なんだよ。-ジェイレン・ブランソン
ああ、俺もそれを言おうと思ってた。何があろうと、例えばあそこに座り込んで『おい、あいつらファウルしすぎだろ』とか『あんなのファウルにするべきじゃない』なんて文句を言ったり、記録の正当性を疑うことだってできる。でもさ、結局のところ、シュートを決めなきゃいけないし、フリースローもきっちり沈めなきゃいけないんだ。それも技術のうちだからな。それに、あんな風に手が付けられない状態(ヒーター)に入ってるってことは……-ジョシュ・ハート
残り9分で、すでに70点に到達してたんだろ?-ジェイレン・ブランソン
いや、間違いなく、彼はキャリアを通じて、第1クォーターだけで31得点なんてことは二度とないだろうね。だから、そういう絶好調の波に乗ってる時、思いっきり攻めればいいんだ。-ジョシュ・ハート
I’ll say this, two things can be true. I think 40-something free throws for a single person is ridiculous, but 83 is 83.-Jalen Brunson
Yeah, that's what I was going to say.0:3535 秒You got like no matter what, like if you want to sit there and be like, "Oh, they were fouling. They shouldn't have been fouling or like question like the0:4242 秒integrity of it, you can do that. But like at at a certain point, you got to make the shots, make the free throws and that." So, you know,0:5353 秒it also, you know, it also shows like if you're on that heater, you know, -Josh Hart
He said it right. You're at 70 with what? 9 minutes left. -Jalen Brunson
Yeah. Like I I guarantee you he probably won't make won't score 31 in a quarter in the first quarter of his career ever again. if you're on that kind of heater and you know suppose like rock out and and you're … -Josh Hart
Via Roommates Show
The Playmaker Loungeのメンバーとしてもおなじみのニコラス武さんがXでポストした内容が個人的には気になった。
俺が怖いのは今回のバムの83を皮切りにダムが崩壊したかのように80点試合が今後数年で連発されること。
— ニコラス武 (@NicholasTakeshi) March 11, 2026
ちなみにこのポストはもしこれが現実になった時にドヤ顔できるようにしてるだけ。
NBAの歴史において1試合で70得点以上が記録されたのは計16回。年代で見ていくと2000年以前には9回(ウィルト・チェンバレンがそのうちの6回)、2000年以降に7回達成された。そして2023年1月2日にドノバン・ミッチェルが71得点を記録して以降、4人が70得点越えを達成している。ニコラスさんがポストしたように、今後80得点越えが頻発する可能性もゼロではないのだ。
Via NBA on ESPN official YouTube
試合後、ノーマン・パウエルが問いかけた。「ウィルト、バム、コービー。この並びを聞いてどう思う?」と。その歴史的なリストに名を連ねたバムは、記者会見で静かに口にした。「コービーなら、なんて言うんだろうね」
負けず嫌いだったコービーのことだ。もしかしたら一瞬だけ悔しそうな顔をするかもしれない。しかしその後には必ず、自分を追い越していった後輩の肩を叩き、「よくやった。だが、次はもっと上があるぞ」と最高の祝福と激励の言葉を送るはずだ。
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