シカゴで育ち、シカゴでその花を咲かせた男の永久欠番セレモニーが1月24日に行われた。2011年に22歳という若さでシーズンMVPを受賞し、マイケル・ジョーダンらが築いた王朝の終焉後、長く深い眠りについていたユナイテッド・センターに再び光を灯したのが、他ならぬデリック・ローズだ。シカゴにとってヒーローであり続けたローズの背番号「1」がユナイテッドセンターの天井に鮮やかに掲げられた。

あの日からひと月あまりが過ぎ、セレモニーの熱狂が落ち着きを見せ始めた今。しかし、天井に掲げられた「1」の輝きは、時間が経つほどにその重みを増しているように感じる。奇しくも今、かつての同胞であるタージ・ギブソンが再びNBAのコートに立とうとしている。その不屈の姿に心を揺さぶられる今だからこそ、どうしてもあの男の物語を改めて振り返らずにはいられなかった。

多くのNBAファンが知るようにローズがこの日を迎えるまでの道のりは決して平坦なものではなかった。史上最年少でのMVP受賞、相次ぐ怪我、そして愛するチームからの離別。それでもシカゴのファン、そしてNBAの選手たちは、ローズを今でも「特別な存在」としてリスペクトする。この記事では引退セレモニーの記録にとどまらず、ローズがこの最高の栄誉を手にするまでのプロセスを辿る。筆者にとってもアイドルであり、世界中のファンにも愛され続けた「シカゴの薔薇」の物語を振り返ろう。

地元シカゴで掴んだ栄光と挫折

シカゴで生まれ育ったローズはメンフィス大学でプレーした後、2008年ドラフトに臨んだ。1位指名が確実視されるなか、獲得するチャンスを得たのはわずか1.7%という確率を引き当てたシカゴ・ブルズ。地元出身のスターを地元の名門が引き当てる。運命的な物語はここから始まった。デビューからその才能は異彩を放ち、2011年にはNBA史上最年少の22歳でMVPを受賞。当時のローズが見せた、リムを破壊せんばかりのスピードと跳躍力はそれまでのポイントガードの概念を根底から覆すものであった。

〈キャリア3年目:MVPシーズンスタッツ〉

・25得点
・4.1リバウンド
・7.7アシスト

Via NBA Japan official YouTube

これ以上ないキャリアのスタートダッシュに成功したローズ。しかし翌シーズンのプレーオフ初戦でシカゴの時計は止まる。フィラデルフィア・76ersとの試合終了間際、ローズは着地の瞬間に左膝の前十字靭帯(ACL)を断裂。勝利を確信していたユナイテッドセンターの歓喜は一瞬にして静まり返った。この怪我によって、シカゴが描いていた「マイケル・ジョーダン以来の王座奪還」という夢は音を立てて崩れ去る。23歳というこれからのキャリアが黄金色に輝いていくはずだった若きMVPにとって、それは長いリハビリと、その後何度も繰り返される「自分自身との戦い」の始まりだった。

そして2016年のオフ、自身のドキュメンタリーを撮影中にローズのエージェントであったBJ・アームストロングからブルズとの別れが告げられた。

Rose : What’s up B ?
BJ : A trade is gonna happen to the Knicks
Rose : You serious?
BJ : Year…
BJ : Listen, I wanted… I wanted to let you know first. Okay?
It’s gonna happen all right?
Rose : Year…
BJ : Are you okay? Or you just…
Rose : I’m just in awe…
BJ : Here’s the thing. Here’s what I need you to do, okay?
I didn’t tell anyone. I didn’t want it come from nobody else but you. All right?
This is gonna be an enormous opportunity for you.

ローズ:「どうした、BJ?」
BJ:「……トレードが決まりそうだ。行き先はニックスだ。」
ローズ:「……本当に?」
BJ:「ああ……。いいか、誰よりも先にお前に伝えておきたかったんだ。いいな? これから正式に決まる。」
ローズ:「そうか……」
BJ:「……大丈夫か? それとも、ただ……」
ローズ:「ただ……信じられないんだ。」
BJ:「いいか、これだけは頼む。俺はまだ誰にも話していない。他の誰でもない、お前からこのことを(周囲に)伝えてほしかったんだ。わかったな? これはお前にとってとてつもなく大きなチャンスになるはずだ。」

ニックスにトレードされて以降、さらにチームを転々とするも半月板の断裂など怪我は重なり、その歩みは決して順風満帆ではなかった。しかしローズは変わりゆく自分の体と向き合い、プレースタイルを必死に進化させていった。かつての爆発力は怪我という闇に奪われてしまったものの、ウルブズ在籍時にはMVP時代にも成しえなかったキャリアハイの50得点を記録したのは彼のハイライトのひとつだ。コートで涙を流すローズの姿には世界中の心が揺れた。

最終的に16年もの現役生活を送り、ローズは静かにユニフォームを脱いだ。全盛期は短かったかもしれない。だが逆境に抗い、泥臭くコートに立ち続けたその背中に世界中のファンから惜しみない愛が寄せられた。

Watch the moment D Rose found out he was traded - ESPN Video
A documentary crew captured the moment Derrick Rose found out he was traded from the Chicago Bulls to the New York Knicks.

永久欠番を知らされたローズ

2025年1月4日、球団はローズに背番号「1」がブルズの永久欠番になるとユーモアとともに伝えた。

M・Reinsdorf : But I’m telling you right now, next year, when we retire your number in the rafters, it’s going to be more about you than the fans. So...
Rose : Wow... So that's why..
M・Reinsdorf : I'm just telling you, nobody's wearing that number '1' jersey again. Unless... unless PJ is a Bull, then he’s wearing that number '1' jersey. All right? Is that fair?
Rose : Yeah.
M・Reinsdorf : We really... I mean, Derrick, we love you. We appreciate everything you've done for Chicago and... you're a special person. Thanks, Derrick.
Rose : Thanks, Mike.
Rose : Let’s go! You're adding one more up there! Yeah!

M・ラインズドルフ:「いいか、今ここで伝えておくよ。来年、君の番号をラフター(天井)に掲げるとき、それはファンにとって以上に、君自身にとって大きな意味を持つことになるはずだ」
ローズ:「ワォ…だからここに来たのか…」
M・ラインズドルフ: 「だから伝えておきたい。もう二度と、他の誰にもその『1番』のユニフォームは着させない。だが、もし、PJ(ローズの息子)がブルズの選手になった時だけは別だがね。彼ならその1番を着てもいい。それでいいかな?」
ローズ:「ああ、もちろんだよ」
M・ラインズドルフ:「デリック、私たちは本当に心から君を愛している。君がシカゴのために尽くしてくれたこと全てに感謝しているんだ。君は特別な人間だよ。ありがとう、デリック」
ローズ:「ありがとう、マイク」
ローズ: 「さあ、行こうぜ! あそこ(天井)にもう一つ、番号を増やしにな!」

Via NBA on ESPN

同日に行われた「デリックローズ・ナイト」

2025年1月4日のニューヨーク・ニックス戦、そのハーフタイムに、引退を迎えたローズの偉大なキャリアを称えるセレモニーがユナイテッド・センターで催された。会場を埋め尽くしたファンは、かつての英雄に向けて盛大な「MVP!」チャントを送り、盟友ジョアキム・ノアもローズへの想いを込めたスピーチを披露。

そしてマイクを握ったローズは、家族への感謝、特に息子のPJに向けた言葉を交えながら、自分を見守り、育ててくれたシカゴという街への深い感謝を真っ直ぐに語った。

Thank you Chicago for forcing me to be great. putting those expectations on them, not understanding that I was trying to be great that entire time, too. And I just didn't know the environment that I was in that was forcing me to. So, thank you for everybody that watched me ever since I was in sixth grade, seventh grade, eighth grade, injuries, uh, MVP, playoff losses, playoff wins. Thank you.
But I must say that is going to be the old pooh. This new version of me is what you see. I am a businessman now. Thank you.
ありがとう、シカゴ。俺を『偉大』であろうとさせてくれて、感謝している。みんなが俺に期待を寄せてくれていた時、俺自身もずっと偉大であろうと必死だったんだ。当時は分からなかったけれど、このシカゴという環境そのものが、俺を突き動かしてくれていたんだ。小学6年生、7年生、8年生の頃から俺を見てきてくれたみんな、本当にありがとう。怪我をした時も、MVPを獲った時も、プレーオフで負けた時も、勝った時も。ずっと見守ってくれてありがとう。
でも、これだけは言わせてくれ。みんなが知っている『Pooh(ローズの愛称)』はもう過去の自分だ。今、目の前にいるのが新しい俺だ。俺も今やビジネスマン。これから新しい道を歩んでいく。本当にありがとう。

Via Chicago Bulls official YouTube

2026年1月24日、シカゴに掲げられた「1」

1月24日。ローズの永久欠番セレモニーはボストン・セルティックスとの試合後に予定されていた。是が非でも勝利をローズに届けねばならなかったブルズは劇的な逆転勝利で試合の幕を閉じた。ユナイテッドセンターの熱気が最高潮に達し、その興奮が冷めやらぬまま、歴史的なセレモニーが始まった。

そこにはかつて共に戦ったジョアキム・ノア、ルオル・デン、タージ・ギブソン、そして恩師トム・ティボドーの姿があった。大型ビジョンには、かつてのライバルであるレブロン・ジェームズやステフィン・カリーをはじめとした多くのNBA選手たち、そしてマイケル・ジョーダンからのビデオメッセージが映し出される。ジョーダンは「自分の『23番』の隣に君の『1番』が並ぶことを楽しみにしている」と語り、ローズを真のレジェンドとして迎え入れた。

マイクを持ち、少し震える声で語り出したローズは、家族、仲間、そして自分を「偉大」へと導いたこの街への想いを一言ずつ紡ぎ始めた。2010-11シーズンにローズとともにリーグ最高の62勝20敗の勝率を収めたチームメイトには感謝を。

To my teammates that was just up here, man. Joe, Lou, Taj, Tibs, everybody. Joe, man, just whenever I needed to talk to somebody, needed to vent to, you was always there, big bro. Lou, you was the first one to put me on nutrition. Now the whole league is on nutrition. You was ahead of your time, my guy. I love the fact that I was that you was older than me, but you used to listen to me because of my experience. You knew that my year or extra year that put me a little bit ahead of you. But you never used to look at me crazy whenever I used to yell at you and I was younger. That's respect. That's called being a professional.
さっきまでそこに並んでたチームメイトのみんな、本当にありがとう。ジョア(ノア)、ルー(デン)、タジ(ギブソン)、ティブス(ティボドー)みんなだ。
ジョア、あんたは俺が誰かに話を聞いてほしい時、感情を吐き出したい時、いつだってそこにいてくれた。最高の兄貴だよ。
ルー、あんたは俺に『栄養管理』を教えてくれた最初の人だ。今じゃリーグ全体が取り組んでるけど、あんたは時代を先取りしてたんだ。
(タジに向かって)あんたの方が年上なのに、俺の経験を尊重して話を聞いてくれたこと、本当に感謝してる。キャリアの長さで俺が少し先を行ってたとしても、年下の俺が怒鳴ったりした時に、あんたは一度も変な顔をしなかった。それこそがリスペクトだし、プロフェッショナルっていうものだよな。

恩師のティボドーには笑いを誘いながらも、怪我をさせたコーチというレッテルから守る言葉を送った。

Tibs. I know a lot of people don't like Tibs because of that, but let me tell you, let me tell you, it's a reason why I say that because they look at Tibs as the injury, the injury part, but I'm here to say that. It's a reason why everything is meant to be, bro. If Tibs was the first person that coach I swear that made me feel special when we used to watch films. I used to do in games just to make sure that he saw on tape that I between me and him I picked that play. I know you saw that. I know you saw me read that play because he felt like he loved the game more than me and which he don't.
ティブス。怪我のことであなたを快く思わない人がたくさんいるのは分かってる。だけど、これだけは言わせてくれ。すべてにはそうなるべき理由があったんだ。あなたはビデオセッションを通じて俺を『特別だ』と感じさせてくれた最初のコーチだった。試合中、俺がわざと難しいプレーを狙いに行ったのは、あんたが後でビデオをチェックした時に『今の読み、最高だったろ?』って伝えるためだったんだ。あなたは俺よりバスケを愛してると思ってたみたいだけど、そんなことはないぜ(笑)。

そして最後には会場にいる未来のBullたちへ。シカゴで育ったMVPが自らの人生を突き動かしてきた「魔法の言葉」を授けた。

And before we before I go, before I go for all the kids in here, it's a lot of kids in here. If y'all can repeat me this one time, it's a mantra that I did when I was younger. Every time I played, I did this mantra. So, if you can repeat me, that' be cool.
“I am I am I am I am the greatest ever. I am the greatest ever. Fear, I command you to leave. I command you to leave.”
Now, with that, I said that before every game. I didn't know that I was basically tricking myself or setting myself up in life. I was forcing myself to be great in every area. And that's why I'm here right now because it's forcing me. I didn't want to be up here talking like this. But since I said that before, every game, every every level in my life is forcing me to be great. And that's why I wanted you all to repeat it because I just tricked you all too. Thank you.

最後に帰る前にもう一つだけ。ここにいるたくさんの子供たちへ。もしよかったら、俺と一緒に一度だけ復唱してほしい。これは俺が若かった頃にずっと唱えていたマントラ(呪文)なんだ。試合の時はいつもこの言葉を自分に言い聞かせていた。だからみんなも俺に続いてくれ。
「私は史上最高だ。恐怖よ、俺の前から消え失せろ。」
これを毎試合前に唱えていたんだ。当時の俺は自分が自分を騙しているのか、それとも人生の準備をしているのかさえ分かっていなかった。ただ、あらゆる面で自分を『偉大』であろうと追い込んでいた。だから今の俺がここにいるんだ。このマントラが俺を突き動かしてきたから。本当はこんな風に人前で話すのは苦手なんだ。でも昔からずっとこれを唱えてきたから、人生のどんなステージにいても、マントラが俺に『偉大であれ』と強制してくるんだ。だからみんなにも唱えてほしかった。俺がそうだったように、今、君たちのことも『偉大さ』の魔法にかけておいたよ。

Via NBA on ESPN

止まることなく新たな道へ進むローズ

セレモニー後の記者会見では、ローズの現在の心境や今後の進路について多くの質問が投げかけられた。その中でローズはバスケットボール界にとどまることに固執するのではなく、自ら新たな道を切り開こうとしている姿勢を明確に示した。

Uh, I mean, for right now, my goal isn't like being around the game like that. And that's once again, I'm not trying to say that in a crash way. It's more like anybody else that's in this room that' older, put yourself in it when you was 37 years old, you were somewhere grinding or trying to figure out your career or ruminating on what you was going to do next. I'm in the same state. I was just putting the lightening now everybody think or the path or the motif was all right how can you get done you got to go back and be around basketball I didn't want that I wanted to curate things that nobody or be in lanes that nobody was in um coming from Chicago when you tend to enter lanes that people are in you step on toes and certain things can happen so with me having that in mind I wanted to curate things so that I don't have to worry about any competition. That's why I did the flower shop. That's why I did chess. That's why can't say that right. That's why we're doing different things to separate ourselves. And I mean, you will see.
今のところの俺のゴールは、そういう形(運営やアンバサダー)でバスケに関わり続けることじゃないんだ。勘違いしないでほしいんだけど、決して投げやりな意味で言ってるわけじゃない。
ここにいる俺より年上の方なら分かってくれると思うけど、自分が37歳だった時のことを想像してみてほしい。みんな必死に働いて、自分のキャリアを見極めようとしたり、次は何をすべきかと思案したりしていたはずだ。俺も今まさにその状態にいるんだよ。ただ俺の場合、その姿が公になっていただけだ。世間のみんなは『現役を終えたら、またバスケットボールの近くに戻るんだろう』という筋書きやそういう結末を期待している。でも俺はそれを望まなかった。
俺は誰もいない場所を耕し、誰も歩いていない道を歩みたかった。シカゴ出身の人間なら分かると思うけど、誰かがすでにいる場所に足を踏み入れると、誰かのつま先を踏んでトラブルが起きたりするものだ。
俺はそれを念頭に置いて、競争なんて気にしなくていい場所を自分で作りたかった。だからあえてフラワーショップ(バラ園)を手がけたし、チェスにも取り組んだ。これらはすべて、自分を(これまでのバスケ選手のイメージから)切り離すためにやっていることなんだ。これから俺が何をしていくか、楽しみにしていてほしい。

Via CHGO Sports

デリック・ローズという才能に満ち溢れた男が度重なる大怪我に屈せず、素晴らしいキャリアを築くことができた理由がまさにこの記者会見に詰まっていた。それは常に前に進み続ける姿勢。2020-21シーズンに6マン・オブ・ザ・イヤー投票で3位に名を連ねたように、ローズは移籍のたびに求められる役割を受け入れ、自らを変化させてきた。その柔軟さは、環境に流された結果ではない。変化を恐れず、むしろ受け入れてきたローズ自身のマインドが生み出したものだ。

常人では想像もできないほどの葛藤、そして果てしないリハビリの日々。それらすべてを抱えながら歩んできた彼のキャリアは、まさに筆舌に尽くしがたい。それでもローズは16年のキャリアで味わった数々の挫折を、まるで自らの名を体現するかのように再び咲かせてみせた。

「私は史上最高だ。恐怖よ、俺の前から消え失せろ。」

このマントラこそがローズが何度倒れても前に進み続けられた理由であり、そして今もなお、彼を次の道へと導いている。


参考引用・ソース(Sources)

・NBA.com(プロフィール・試合記録)

・Basketball-Reference.com (Derrick Roseスタッツ)

・CHGO Sports YouTube

・https://www.espn.com/video/clip/_/id/26502233