2025年8月、日本が世界に誇る八村塁選手が「BLACK SAMURAI2025」の名の下に、数多くのイベントを行うとともに、日本バスケットボール界への提言とも言えるメッセージを発信しました。
私、佐々木クリスは光栄にも八村選手よりMC/通訳のご依頼を頂きました。このプロジェクトに携わる中で、"歴史が動いていく様子"を肌で感じ、八村選手の人間的な部分も垣間見ることができました。
あまりにも壮大なこのイベントの全てを、このコラムでお伝えするのは困難と言わざるを得ません。それでも、少しでも皆さんにこのイベントの意義や重要性をお伝えしようと全力で取り組んだ、先日のYouTubeでの生配信の要点をご紹介したいと思います。
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佐々木クリス YouTubeチャンネル 2025年8月23日 生配信フルアーカイブ
八村選手のホームカミング
今回のイベントは、八村選手が歩んできたこれまでの人生と刻んできたキャリアを祝うセレブレーションであり、彼にとってホームカミングとも言える貴重な機会となったのではないかと感じています。
八村選手を迎え入れた1万人を超えるIGアリーナのファンの方々のパッションと愛情がまじわったことで非常に大きなエネルギーとなり、歴史を動かすような一大イベントになったのは間違いありません。公式戦でも、国別対抗試合でもない。そんなイベントでこれほどの熱狂にひとつの会場が包まれたことは、未だかつてなかったはずです。さらに、イベントの締めくくりのトークショーで八村選手自身が日本代表への強い思いを語った訳ですから、あの場にいることができて本当に幸せでした。
このホームカミングとも言えるイベントについてもう一歩踏み込むならば、外側から覗き込むだけでは分からないアメリカ挑戦やNBAでの苦難の道のりを経て、母国日本でファンからの大きな愛情と声援を今回直に受けることができたのは、八村選手にとって非常に重要な体験だったとも思います。
八村選手も語った“英語の重要性”
言語障壁と文化的な障壁、この2つは八村選手がNBAドラフト1巡目指名を受けた時から、彼が乗り越えなければならなかった障壁として度々解説してきました。そんな彼が、「BLACK SAMURAI 2025」の期間中に「バスケを頑張りたいなら英語」というメッセージを子供達に送るシーンが度々見られたのは印象的でした。また「そもそもオフコートでチームメイト達とコミュニケーションが取れないのに、コート上でボールが回ってくるはずはない」。という趣旨の発言は、生き残りをかけて育成年代から戦っているハングリーなアメリカ出身選手を跳ね除けてドラフトされ、7シーズンもNBAでプレーしている八村選手だからこそ、強い説得力があったのではないでしょうか。
『覚悟』
2025年の夏を通じて、八村選手は幾度も『覚悟』と言う言葉を発していました。イベントの成功もその覚悟があったからこそでしょう。八村選手の覚悟は子供達への真摯な向き合い方や、イベントの細部にわたるこだわりからも感じ取ることができました。そのひとつのハイライトが、最終日のTHE SHOWCASEで披露された八村選手とフィル・ハンディによる“ワークアウト”でした。ボールをキャッチする前の腰の落とし方や指の先まで感覚を張り巡らせたターゲットハンドの構え。ボールをレシーブしてショットに持ち込む足捌き。どれをとってもほとばしる何かを感じずにはいられない。2人のワークアウトには“神秘性”を感じました。
実はこの“神秘性”を以前にも感じたことがあります。2013年に取材した、当時マイアミ・ヒートに在籍していたレブロン・ジェームズのワークアウトです。我々メディアの前に真剣な面持ちで現れたレブロンは、20分間ひたすら前日の試合で外したショットを再現しながらシューティングに励んだのです。さらに次の試合で放つであろうスポットからもシューティング。レブロン1人でワークアウトしているのに、目の前で試合が繰り広げられているような錯覚すらおぼえる時間でした。この空気感は間違いなくNBAで生きる術を身につけた選手しか出せない特別なものだと思います。今回間近でそれを体験できたのは本当に幸せでした。
八村選手の可能性を見抜いたフィル・ハンディ
八村選手がレイカーズへトレードされた際、八村選手つきのコーチとなったフィル・ハンディは、「Ruiがオープンなショットを放たなかったら、1回ごとに罰金50ドルを課していた」、「彼にはいつも“君が思っている以上に君は素晴らしいシューターだ”と伝えていた」と明かしました。またフィル・ハンディは八村選手がレイカーズに移籍する前、ワシントン・ウィザーズのヘッドコーチ職の面談を受けた際に、八村選手を中心に置いていかにチームを率いるかを提案したと言います。一貫して八村選手の可能性を信じ、一緒に取り組んでくれたフィル・ハンディの存在がいかに今の八村選手を形作るのに大きなものだったのか、3日間を通じて強く感じられました。
確信
THE SHOWCASEの1週間前に行われた、TOKYO TALK SHOWでは、八村選手がレイカーズやレブロンとプレーすることの難しさや、プレッシャーの大きさについてファンに語ってくれた場面がありました。「レブロンから来たパスをシュートせずに他の選手にパスすると怒られる」、「こいつは決められると思った相手じゃないとパスはしない」とのエピソードが印象的でしたが、それを決め切るのは相当なプレッシャーがついてきます。
ただ、皆さんの記憶にも刻まれていることでしょう。八村選手は2023年のプレーオフで3Pを48.7%と高い成功率で決めてブレイクスルー。特にプレーオフ初戦、グリズリーズとのアウェー戦で3Pは5/6と火を吹き「今でも思い出すと鳥肌が立つ」と語っていました。その後チームはカンファレンスファイナルまで勝ち進みましたが、ここで築き上げた信頼と成功体験から、八村選手が語ったのは、「自分はレブロンやルカのようなスーパースターじゃない。その中で大事なのは役割を与えられることと、その役割をしっかりやることが大事だと理解している」ということでした。
ロールプレーヤーとしてNBAで生きる術を確信している。そして基本に忠実にかつ、精度を高めるために腹を括って日々ワークアウトや身体のケアに取り組む。だからこそ、THE SHOWCASEでみせたワークアウトには嘘偽りがなく、圧倒的な説得力が伴って“神秘的”と感じたのでしょう。
そして、この夏の一大イベントを成功させ、自身のキャリアを客観的に捉えて実践している八村選手は、キャリアの絶頂がこの先に訪れるのではないか。これが今僕の中で確信していることです。彼の人生も、キャリアも、日本におけるリーダーとしての役割も、ここからさらに大きく花開くはずです。
改めてこの夏、このイベントに携われたこと、心より感謝申し上げます。