3Pの爆発的増加から早10年…
皆さんはこのビッグバンが誰によって引き起こされたと思いますか?

ここ12年、13年のスパンでみても3Pショットを活用せずして優勝は無いと言えるほど、現代バスケットボールにおいての戦略的重要度が上がっている”長距離砲”。これは何故なのか?そしてNBAで3Pのビッグバンが起きたと多くの人が考える”スプラッシュブラザーズ”の躍進より遡ること3年…本当のビッグバンは別の選手によって引き起こされていた事実をご存知ですか?

では真相と真犯人を特定ですが…ある言葉、ターミノロジー(バスケ用語)を語らずして解明は不可能でしょう。そして3Pショットの本当の価値を知ることは出来ません。

その言葉こそ【スペーシング】

試合中継などでもよく耳にする言葉ですし、バスケットボール言語として極めて重要な言葉です。選手たちの距離感とも言えますが、奥深く、基本中の基本でありながら、たった一つの正解があるとも言えない。

そんなスペーシングについて一緒に考えながら紐解いていきましょう。

その前に、そもそもバスケの目的ってなんでしたっけ?

・勝つこと?
・どのようにして勝つ?

当たり前ですが、バスケは得点しなければ勝てないスポーツです。0-2ので勝負の決まったゲームを生まれてこのかた見たことがありません。

ですから目的は相手よりも多くの得点をあげることです。
さらにそこに至るまでのプロセスに注目すると相手よりも1回でも多く

・効率的な得点方法を編み出す
・イージーショットを創出する

この2点が極めて重要です。
もちろん相手のこのようなショットを打たせないことも極めて重要なのですが…
今回のトピックはスペーシングなのでオフェンスにフォーカス、焦点を当てていきましょう。

バスケの目的は『シュートを決めること』

当然シュートが決まる確率が上がるのが、日本語ではノーマーク、英語ではオープン(Open)と言われるイージショット(easy shots)を放つことです。そしてOpen shot, easy shotを生み出すためには数的優位を作ること、これがオフェンスにおける任務、プロセスの半分以上というわけです。
そして、この数的優位の効果を最大化してくれるのが、スペーシングです!

ステーブ・カー

『スペーシングがあればオフェンスシステムがある』
Where there is spacing, there is a offensive system.
逆にスペーシングがないとオフェンスシステムが成立しない。
なぜなら数的優位が作れなくなってしまうから。
On the opposite side without spacing there would be no offense…

ピック&ロールや、どんな複雑なスクリーンアクションをデザインして相手を罠にはめようと試みても、スペーシングがなければ、そもそも成立させるのは至難の技…これはU-18や育成年代でも同じです。

どのようにコートを“広げる”か?

コート上の選手たちの布陣には…

5 out

4 out 1 in

チームの特徴によって様々あると思います。その上バスケは流動的で布陣はアメーバみたいにグニャグニャと0コンマ何秒単位で変形します。ただしこの際に選手同士の距離感にはしっかり気をつけようね、という話。

ちょっと戻ってシンプルに考えてください。

これがNBA選手が5人3Pラインの外にたった時のコートの広さ

比べて、1mで良いです、選手5人がラインの内側にたった時の広さ

随分と違いますよね。比較するとだいぶ狭くなる。さらにディフェンスが立つことによってライン内は非常に込み入ってしまいますね。

NBA、FIBAで若干の違いはあれど、コートの幅は15mほど…NBA選手が3-2 ZONE組んだら、え?どこをアタックすれば中に入れるの?って感じちゃうくらい選手たちは大型化が進んでいます。

ここでディフェンスを引き延ばす必要が出てくるのですが、やはり注目したいのは3Pショット。ここ10数年の爆発的増加は皆さんの知るところだと思います。

このグラフはNBAにおける"スペーシング"革命の足跡を示す象徴的データ。24シーズン前 の2000-2001シーズン、リーグ1試合 平均3PAは1チーム 13.7 本。これがなんと、2019-20年はハーデンが一人で12.6本。 2019-20 シーズンにはチーム平均で 33.9本、20年前のおよそ3倍にまで膨らんだのです。

改めて確認すると、NBAで3PAが20本に初めて到達したのは2021-13シーズン。その次の2シーズンは微増でありながら2016-17には27本に到達し、あとは皆さんのご存知の通り。ちなみに1試合あたり27本というのは2014-15シーズンに優勝したゴールデンステイト・ウォリアーズの平均3PAと同じであり、NBAのチームが平均27本未満に終わったのは2018-19シーズンが最後。ここ6シーズンは1シームもこの数字を下回っていません。

2016-17シーズンはゴールデンステイト・ウォリアーズやヒューストン・ロケッツの躍進もあり、どんどん統計学的観点から”効率化”がNBAのオフェンス戦術の中で推し進められたのは間違い無いでしょう。3Pを活用する傾向に後戻りの兆候はありません。ただし、これはさらなる上昇やペースアップを作っただけで、歴史的にみる本当のきっかけは2011年、ノヴィツキーの優勝であったり、2012年のレブロン優勝だと言えます。

なぜならNBAを席巻する『ペース&スペース』という考え方や言葉も2011年のファイナルで破れたマイアミ・ヒートのスポールストラHCが友人でアメリカンフットボールNFLチームのキャンプを視察中に『強大なアスリートを解放するには”ペースとスペース”が必要だ』という言葉を聞いて、これをレブロンに当てはめたことから始まっていると2011年にESPNは報じた記事から読み取ることができます。S・ナッシュ時代のサンズを率いた、このスタイルのゴッドファーザーとも言えるマイク・ダントーニさんもこの言葉までは使っていなかったようですが、スポールストラHCの大きな狙いはコートをSpread (広げる)ことにあり、スペーシングを広げたいと言い換えることができるはずです。

実際に2012年のファイナルでサンダーと対戦したヒートはスモールラインナップで相手を破って優勝。つまり伝統的なパワーフォワードPFとセンターCを起用するのでなく、ボッシュをセンターCとしてレブロンやウェイドがペイントを切り裂けるようにしたわけです。これ以降ボッシュはストレッチファイブとして、レンジをさらに広げ、3Pの頻度も上昇して行き、比例するようにレブロンの支配力も更に向上するのです。ですから、僕の目にはGSWやスプラッシュブラザーズが3Pビッグバンの始発点ではなく、このトレンドをより助長したに過ぎません。

3P成功率の推移

次に見ていただきたいのは3P%の推移です。

年ごとにばらつきがあり、見てわかるとおり、ずっと右肩上がりではありませんし、一定の範囲内に収まっています。ここで重要なのは確率が明確に向上していないけど、放つ本数(3PA)は軒並み上がっている。つまり打つことの重要性が強調されているということです。

更に昨今のNBAでは3Pラインから1m、2m後方から放つことも当たり前で、スペーシングは更に広がっています。この事実を踏まえると、3Pを放つ選手の正確性も20年前より向上していると個人的に考えています。事実3P%のグラフを移動平均で下に示したグラフを見るとコート上5人が3Pラインから脅威を示せるようになったのに加えて、リーグ全体の正確性は緩やかではあれど着実に向上していることがわかります。

3P引力の法則

改めて大切なのは3Pの脅威を引力として活用し、ディフェンスを引き伸ばすこと。これを『3P引力の法則』と呼んでいますが、皆さんがお正月に食べたお餅を両端から引っ張るとどうなりますか?いずれプチっと切れますね。

これがすごく大切なことなんです。こちらをご覧ください。ノーチャージセミサークル=制限区域内のFG%をシーズン毎の年表にしたものです。

ペイント全体ではなく、バスケット周辺ということにご留意ください。バスケット周りのFG成功率は2000-2001 シーズンの60.0% から2019-20シーズンの時点で 63.3%%まで上昇していることがわかります。直近の2024-25シーズンは66.4%とここ5シーズンは65%以上を維持しているのです。これはNBA全体の3P%の推移と比べると顕著な違いだと言えますね。

3P%が急激な向上を見せていなくても制限区域内のFG%の向上が見られる。これは注目に値することでしょう。ちなみに24-25シーズンのボストン・セルティックスはFGAに占める3PAの割合がNBAで最も高い53.6%と3Pの活用が非常に顕著でしたが、制限区域内のFG%もリーグで3番目に高い70.6%を記録しています。 意外と思ったかもしれませんが、先ほどの3P引力の法則と合わせて考えていただけば納得いただけるはずです。

また近年のバスケットボールは3Pショットが多すぎて面白くない。インサイドがなおざりになっている。などの意見が広く世界中で散見されますが、先ほどのグラフと同じバスケット周りのFGを見た時に、FGAもFGMも20年以上に渡って大きな変化はみられません。そのデータを下記のグラフに示しています。

つまり3Pが増えているのは事実だが、バスケット周りのFGは減っていない。それでいて20年前、いや10年前と比べてもバスケット周りのFG%は非常に高い。現代のバスケットボールが非常に効率的に展開され、ショットの精度が改めて高まっていることが浮かび上がってきます。NBA解剖学 #2のテーマでもあるペースが増加していながらもバスケット周りのFGが増えていないことは検証の余地がありますが、ペース増がもたらした攻撃機会の多くは3PAへと繋がっており、バスケット周りのFG%を引き上げる要因とはなっているものの、FGA増にはなっていないと考えることが自然かもしれません。

自転車の前輪と後輪

最初に話したバスケットボールの目的を思い返してください。

バスケットの周り、オープンな状態で放つショットこそが疑いもなく、最も価値のあるショット。この原則は今も普遍的で変わらないのです。

2012年にレブロンは彼を囲む選手たちがコートを広げることで頂点に立つことが出来ました。そして2021年ディフェンディングチャンピオン、バックスも多く3Pを放ってきたチーム。(24-25シーズンは例外的に少なかった)もちろん目的はヤニスのポテンシャルを解き放ち、シャックに匹敵するようなペイント内得点の量産に繋がったのです。

もちろん統計的な得点期待値をみると5-6メートルと距離の長い2Pよりも3Pショットの方が効率よく得点に繋がることは事実です。ただし、3Pショットの得点期待値や効率だけに着目してしまっては、3Pを活用する本当の理由、真実を見失ってしまうことになるでしょう。

現代におけるペイントアタック、バスケット周りのショットと、3Pの活用は『自転車の前輪と後輪』と言えますね。どちらにブレーキがかかってしまっても、目的地へはスムーズに進めません。

これが顕著になればなるほど、2018年頃のロケッツが有名にしたように、ミッドレンジの2Pは避けらる傾向が強まります。『ミッドレンジは死んだ』などと言われるのはこのためです。

個人的には効果的なミッドレンジを引き出しに持っていることは重要と考えています。いずれ、ミッドレンジについてもお話できる日がくるかもしれませんが、ここでも”効果的に”使えるかがキーワードになります。NBAにあってどれくらいの選手たちが、ケビン・デュラント、シェイ・ギルジャス=アレクサンダー、のように効率よくミッドレンジを決めることができるでしょうか。

さぁ、スペーシングに戻って、ここまでの話で、現代のバスケで『3&D』と呼ばれる選手たちがいかに価値があり、貢献度が高いかもお分かり頂けたと思います。ヤニスやルカ・ドンチッチでも、彼らの周りを優秀な3&Dで囲めば勝機は毎年あります。

取り除きたいのはペイント内の煩雑さ

最後に、まとめとして、90年代からNBAを見ていた方、2000年代から見てきた方にとって、いかに攻防の最重要拠点『ペイントエリア』が煩雑だったかを思い返せるはずです。日本でもそうでした。3Pラインが考案されてからあまりにも多くの月日が流れ、バスケットボール界全体が3Pショットのもつ効力に気づくのに多大な時間がかかりました。

その効力とは『ペイントエリア』の煩雑さを解消すること。もしくは理想的なスペーシングを生み出し、質の高いショットの創出につなげることです。

これは現代バスケの主流となったピック&ロールのようなボールスクリーンアクションとも切っても切れない関係にあります。なぜならピック&ロールと現代の選手たちのスキルと運動能力の組み合わせが、ペイント内で2対1の数的優位を生み出す最も有効な手段となっているからです。

ただし、数的優位を作ったかに見えてもスペーシングが乏しいと得点の機会を潰されてしまいます。

スペーシングの最大の原則は『2人を1人で守らせないこと』でしょう。

これは2対1の速攻や3対2の速攻でも同じ。『2人を1人で守らせない』この原則さえ守れば、スペーシングがオフェンスの栄養剤、ポパイのほうれん草としてチームの可能性を広げてくれるはずです。

最後のデータはおまけ。レブロン、ヤニスは神話の世界から出てきたヘラクレス的選手とも言えますが、1試合平均ペイントエリア内得点が9点以上を記録したガード選手の推移を見ていきましょう。(赤い部分は10点以上をあげた人数)

🟥 平均10得点以上をあげた選手数 🟦 平均9得点以上をあげた選手数

グラフは2021-22シーズンで止まっていますが、大男たちがひしめくNBAにあってスペーシングはガードの選手たちにもいい効果をもたらしていると言えるでしょう。2024-25シーズンはガード表記の選手が15人もペイントエリア内で平均9得点を超えていました。(22-23 17人、23-24 16人)これが新たなスタンダードと言えそうですね。

次回”NBA解剖学”ではNBAを席巻する『ペース&スペース』のもう一つの要素。『ペース』についてお届けしたいと思います。


ENGLISH Ver.

Understanding Spacing: The Foundation of Modern Basketball Offense

By Chris Sasaki | Basketball Analyst

Welcome, everyone. I'm Chris Sasaki, a basketball analyst based in Japan. I’ve been fortunate to commentate on both the NBA and Japan’s B.League, and today I’d like to take you on a deeper dive into one of the most essential — yet often misunderstood — concepts in modern basketball: spacing.

What Is Spacing — And Why Does It Matter?

You’ve likely heard the term “spacing” thrown around during broadcasts or in coaching clinics. At its simplest, spacing refers to the distance between offensive players on the court. But that definition only scratches the surface. In reality, spacing is the bedrock of any offensive system. As Steve Kerr once said:

“Where there is spacing, there is an offensive system.”

Why? Because spacing creates numerical advantages — turning a 5-on-5 halfcourt into a 4-on-3, 3-on-2, or ideally, a 1-on-0 at the rim.

The Purpose of Offense: Creating High-Quality Shots

Let’s rewind a bit and ask a basic question: What is the goal of offense in basketball?

It’s not just to score, but to score by generating high-percentage shots consistently. The easiest way to do that is to create open looks — particularly at the rim or beyond the arc. And to create those open looks, spacing becomes your most important weapon.

No set play — no matter how well-designed — can function. A tightly packed floor allows defenders to cover multiple threats at once, neutralizing ball movement and driving lanes.

Stretching the Floor: A Historical Shift

Spacing in the modern game is largely built around the three-point shot. In the 2000–01 NBA season, teams attempted an average of 13.7 three-pointers per game. Fast forward to 2019–20, and that number nearly tripled to 33.9.

What triggered this shift?

While many point to the Golden State Warriors and the rise of the “Splash Brothers,” I believe the seeds were planted earlier — around 2011–2012. That was the era when:

  • In 2011, Dirk Nowitzki led Dallas to a championship with elite shooting bigs.
  • In 2012, LeBron James and the Miami Heat defeated OKC by going small and spacing the floor.
  • Chris Bosh extended his range, pulling rim protectors out of the paint and allowing LeBron and D-Wade to attack.

The Warriors and Rockets pushed this trend into the mainstream, but the transformation began when coaches realized that stretching the floor unlocks your best players’ potential.

The Impact of Spacing on Shot Quality

Spacing doesn’t just create better perimeter looks — it improves interior scoring as well.

  • In 2000–01, field goal percentage around the rim (restricted area) was 61.9%
  • By 2019–20, it had increased to 66.6%

This 5% bump is significant, especially in a league where possessions and margins matter. Why the improvement? Because proper spacing pulls defenders out of the paint, reducing congestion and making finishes around the basket more efficient.

This paints a fuller picture: spacing is not just about shooting more threes — it’s about making every shot more efficient.

Why the Midrange Is Dying — But Not Dead

In today’s analytical landscape, shots between the arc and the restricted area — the so-called “long twos” — are disappearing. Teams have realized that:

  • Three-point shots yield more points per attempt
  • Paint attempts are the most efficient
  • Everything in between is, statistically, suboptimal

But that doesn’t mean the midrange is meaningless. Elite players like Kevin Durant, Devin Booker, and SGA still thrive in this area — because they can make those shots efficiently. For most players, however, it’s not the ideal zone.

3&D Players: The Unsung Heroes of Spacing

To create spacing, you need threats — especially beyond the arc. Enter the rise of 3&D players: wings who can stretch the floor and defend at a high level.

Surrounding stars like LeBron James, Giannis Antetokounmpo, and Luka Dončić with 3&D talent maximizes their effectiveness. These role players force defenses to stretch out, creating the very lanes those stars dominate in.

Spacing and the Pick-and-Roll

Let’s not forget the Pick-and-Roll — the most-used action in basketball today. With proper spacing:

  • The ball handler and screener can create a 2-on-1 in the paint.
  • Help defense is forced to rotate longer distances.
  • One mistake leads to an open shot, lob, or kickout.

But without spacing, even the best P&R combinations get suffocated.

Final Thoughts: Spacing as the Essence of Modern Offense

In the end, spacing isn’t just a tactic — it’s a philosophy. It’s about ensuring that no single defender can guard two offensive players at once. It’s about manipulating the court geometry to consistently produce better shots.

Many offensive plays can be run — motion, isolation, horns, or spread pick-and-roll — but without spacing, none of them will work as intended.

Spacing is the oxygen of modern basketball offense. Or, if you prefer a gym-related metaphor, it’s the supplement that allows your offense to build strength, speed, and efficiency.


🎥 Thanks for reading (or watching, if you checked the video). If you enjoyed this breakdown, consider subscribing. In our next episode, we’ll explore how “pace” — the tempo of your offense — can elevate your team’s performance.

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